表現やそれによって生まれた作品は、その時のものでしょうか?
または時を超えて、いつの時代にも語りかけることが出来るのでしょうか?
時代によって私たちの社会や価値観は目まぐるしく変わり続けます。
流行やテクノロジー、情勢やモラルは常に動き続け、人は戸惑い試行錯誤をしながらその時代を生きます。
これらの作品は、すべて30 年以上前に制作された、京都府亀岡市のみずのき美術館収蔵によるものです。
今なお高い現代性を感じさせるこれらの作品には、どのような秘密があるのでしょうか。
それは作品が持ついつの時代も変わらない確固とした普遍性なのか、または流動的な社会や人に関わる事のできる柔軟性なのでしょうか。
いつどこで描かれたということをはるかに超えて、私たちの感受性は、今、ここで作品と出会います。
みずのき美術館|
2012 年、京都府亀岡市に開館。名前の由来になった障害者支援施設みずのきで、1964 年に始まった絵画教室から生まれた約2 万点の作品を収蔵し、アール・ブリュットと障害のある人の美術教育や共創性について考察する。 http://www.mizunoki-museum.org/
二井貞信
Sadanobu Futai
二井貞信(ふたいさだのぶ・1917 年生-1978 年没)
第二次世界大戦時に激戦地のフィリピンへ出征し、極限状態の中で精神の安定を失ったとされている。1963 年に障害者支援施設「みずのき」へ入所し、翌年開設された絵画教室に参加するようになった。講師で画家の故・西垣籌一は、「エビスさんのように、いつ見ても微笑みをたたえている」と記録に残している。
1994 年、「アール・ブリュット・コレクション」(スイス)に作品が収蔵された。
石
オイルパステル、画用紙
38.1 × 54.2 cm
1976 年制作
福村惣太夫
Soudayu Fukumura
福村惣太夫(ふくむらそうだゆう・1936 年生-2019 年没)
絵画教室が始まった1964 年から参加。強靭な体力を見込まれ、大きなキャンバスを用いた油彩画や緻密な点描画などに打ち込んだ。言葉は持たなかったが、身振りを交えたユーモアのあるコミュニケーションで、いつも周りを楽しませた。作品はいずれも抽象的な表現に見えるが、風景などを描いたものが多いのではないかと考えられている。
タイトル不明
油彩、木炭、キャンバス
38.0 × 45.4 cm
1989 年制作
中原安見子
Amiko Nakahara
中原安見子(なかはらあみこ・1954 年生まれ)
図録や写真集を見ながら描くことが多いが、講師や見学者がいると、「ここに(あ
なたの)名前描いて」、「このうさぎは何色がいいかな?」などと尋ねて、自身の絵を介した交流そのものを楽しんでいる様子である。モチーフは動物が多く独特のキャラクター性を持っていて、映像作家の浦崎力によって動きを与えられたアニメーション映像作品でその人気を博した。
イネ苅り
木炭、木炭紙
49.6 × 64.9 cm
1981 年制作
浅木久輝
Hisateru Asaki
浅木久輝 (あさきひさてる・1968 年生まれ)
指先が器用で、はさみを使って紙を細かく切ることやジグソーパズルが得意だったそうだ。色彩構成のほか、雑誌や画集に掲載されている写真や挿絵、または隣の人が描いているモチーフから一部が選び取られ、パーツを並べるようにして画用紙に描く作品が多い。いずれも関連のないイメージにも関わらず、全体としては不思議なリズムが生まれていて統一が保たれている。
無題
オイルパステル、画用紙
38.0 × 53.9 cm
1991 年制作